筒井康隆「パプリカ」
精神医学研究所に勤める千葉敦子はノーベル賞級の研究者/サイコセラピスト。
だが、彼女にはもうひとつの秘密の顔があった。
他人の夢とシンクロして無意識界に侵入する夢探偵パプリカ。
人格の破壊も可能なほど強力な最新型精神治療テクノロジー「DCミニ」をめぐる争奪戦が刻一刻とテンションを増し、現実と夢が極限まで交錯したその瞬間、物語世界は驚愕の未体験ゾーンに突入する。
スティーブン・キングばりに、作品が映像化されたら出たがることで有名な(?)作家、 筒井康隆の『(3年3ヶ月の)断筆宣言』前の最後の作品です。
SF作家としても高名な作者の、勢い溢れるSF冒険活劇といった感じでしょうか。
主人公のパプリカは、精神的に病んでいる人の夢の中に入って、病みの根源を探り、 治療していく『夢探偵』。
人の外面である現実の世界からだけでは、どうしても治せない部分を、内面に潜り込んで 治そうというワケです。
ただでさえ不安定な人の、不安定極まりない『夢』の中へ行くワケですから、 飲み込まれてしまう可能性もあり、非常に危険な仕事でもあります。
で、この夢の世界へ行くには、特別な機械が必要なんですが、この機械を巡り、 とある組織内で内紛が起きてしまいます。
その内紛が、『夢の世界』と『現実の世界』を混乱させ、未曾有の危機に陥れるのです。
蠱惑的で天真爛漫で、時に母性的なパプリカの文字通り『万人に愛される』キャラクターと、 幻想的で悪魔的、耽美的な『夢の世界』の支配者との対決は、ページをめくる速度を落とさせません。
結局『夢』とは、自分が一番見せたくない部分や、自分の弱い部分、自分の根源的な部分だというのが、 この作品で再発見でき、自分の『トロゥマ(トラウマ)』や『アニマ』とは、どんなものなのか内面を 覗いてみたくなります。(その時は是非、パプリカと一緒に) SFが苦手な人でも娯楽作として楽しめる1冊です。