ぼくんち | ”旬”最新情報『得とく倶楽部』

ぼくんち

「ぼくのすんでいるところは―/山と海しかない しずかな町で―/はしに行くとどんどん貧乏になる。/そのいちばん はしっこが/ぼくの家だ―」。

腹違いの兄、一太。突然現れた、美しくてやさしい年の離れた姉、神子(かのこ)。

そして「ぼく」、二太。クスリを売る。体を売る。金を貸す。とりたてる。

この町の多くの大人たちは、そんなふうにして生きている。

神子ねえちゃんは言う。

「泣いたらハラがふくれるかあ。泣いてるヒマがあったら、笑ええ!!」。

ヤク中の父を亡くしたばかりの少女は、うまく泣くことさえできずに、不思議そうにこう言う。

「息するたびにな、ノドの奥に小石みたいのがたまるんよ。食い物の味わからへん」。

むき出しの現実を見ながら、幼い心にいくつもの決意を刻んで「ぼく」は成長していく。

映画化(2003年)にあわせて、オールカラー全3巻だったものを白黒の普及版として1冊にまとめたもの。


見開き2ページのショートストーリー114話で構成。

巻頭には、描きおろしのカラー漫画が4ページ収録されている。

日々の出来事を2ページで描きつつ、一太が家を出るあたりからは全体を通して話に流れが出てくる。

彼らはいつも、あきらめたような、悲しいような笑みを顔に貼り付けて、痛いほどにただただ求めている。

自分の家で、家族そろって暮らすことを。

ともに食卓を囲むことを。

ラストシーンで二太が見せる笑顔は、痛ましさと同時に少しの希望を感じさせ、いつまでも胸に残る。


ぼくんち(全)